パリで考える。

Xmas前の3日間を、パリにて過ごす。

バーゼル発のTGVは満席。パリへ帰る人、パリを経由して山へスキーに行く人、そして
パリへ日本食を食べに行く私たち……。なぜパリに行くのか、それはパリには(スイスには
ない)巨大な日本人街があり、究極的には

ジュンク堂パリ支店があるから

だったのです。

日本語で読みたい。日本語で考えたい。(いや私とか子どもたちはいつもそうだけど)

これは、完全なバイリンガル脳の夫にとっては喫緊の需要というか欲求で、彼が家庭内で
しか日本語を喋らない現状にあるために、日々日本語が失われていくのを私などはまるで
実験観察をする小学生のように興味深く見守っていたのでした。

オペラ座近く、日本人街ど真ん中にあるホテルに宿を取り、何かの敵でもとるかのように
日本関連店を渡り歩く夫。ジュネーブ在住の日本人外交官たちが、パリに行ったら
必ず寄れと薦めてくれたラーメン「ひぐま」、蕎麦屋「AKI」、ヨーロッパ最大の品揃えという
日本食料品店「京子食品」、そしてヨーロッパ大陸で最もup to dateな和書を取り扱う
ジュンク堂に、在仏邦人たちが読み終えた本を売り買いするブックオフ!!

ジュンク堂ブックオフは、私は個人的に「在仏日本人たち、日本びいきのフランス人たち
が何を好んで読むのか」を知るのがとても楽しく。

日本びいきの若者の間でのMANGA、ゲーム、ジャパニメーション人気はもう自明。
Ozu、Kurosawaといった日本映画人気、そしてISSEYやKANSAIなどのファッション
人気も。和風のインテリアもそうだねという感じで。

しかしブックオフには「フランスを夢見た、またはこれでフランスを学んだ」邦人の
記憶の残骸なのか、玉村豊男辻仁成の冊数が標準的な日本の書店よりもはるかに
多かったような気が……。
辻仁成はパリ在住だし、それが売りなので分かるけど、そうか、玉村豊男か……。
日本で「根性で」南仏生活を送る玉村豊男、まだヴィラデストに着手する前のエッセイは、
中高生時代、よく読んでたなぁ……。そうか、日本人のフランスイメージは玉村豊男
の世界なのか……。


帯に「シャンパーニュのように輝き、コニャックのように芳醇な人生を」とかって書いてあった。
長野発。

日本の値段のおよそ3倍となるジュンク堂では、それでも買いたい本を選ぶ。
現代思想社会学系、そして心理と宗教系が際立ってセレクションが多いのは、
パリだからなんだろうな。それと、純粋な経済理論や玉石混淆ビジネス書の隣に、
国際貢献テーマ」の独立したコーナーがあるのも印象深かった。

で、ここで夫が買ったのはやはりいつも通り国際関係論、外交系を何冊か。自分が一緒に
仕事をした外交官たちが、それぞれのタクティクスを論じて日本外交論を出していて
懐かしいとか。

私は、どうしても譲れずに内田樹『こんな日本でよかったね』(バジリコ)、
東浩紀北田暁大 『思想地図 Vol.1 特集・日本』(NHKブックス)。
日本にいるときは立ち読みしてスルーした 本を、なぜか読みたいと思いました。

ムスメは、ずっと探していたという日丸屋秀和ヘタリア 1・2』幻冬舎コミックス
そこに私から のプレゼントで、ブリジット・ラベ/デュポン・プリエ『哲学のおやつ じぶんと他人』汐文社
(あと、ムスコはギャルリー・ラファイエットで実にヨーロッパ的な騎士伝シリーズから
竜の おもちゃを。)

どうしてなのか、3人とも視点こそ異なれど「日本」について論じた本ばかり選んで購入
した点に、いま私たちが否応なく日本人としてのアイデンティティを強烈に自覚せざるを
得ない状況にいることを感じました。

日本のアイデンティティ。日本人のアイデンティティ。それは、スシとかテンプラとか
キモノという記号を超えた、戦後生まれの親に育てられた戦後生まれの子ども世代、
もう政治的にも文化的にもアメリカと不可分になったのが当然の状況で生まれてきた
世代が構築する、日本のアイデンティティで。

でも、それを考えるには、開国と大戦と、何よりも実は開国前の日本を知っている
必要があり。

日本は「『戦後50年で西洋にキャッチアップした、奇跡の東洋の小国』 ではない」、

というセンテンスの意味を、理解する必要があり。

そんなことを考えた、パリ帰りのTGV。