美食と諦念と情念と。
再び某誌編集さんたちとの、打ち合わせとは名ばかりの食事会。
「紆余曲折ありまして、店は表参道のPです」
「ぴ、P……。どえらい高そうな名前ですけども、何ですか、それ」
「フレンチです。三ツ星です。『皿の上のピカソ』ですよ。カワサキさん知らないんですか」
「またフレンチ……鰻屋とかないんですか。せめて和食……」
「(無視)さ、お手並み拝見と参りましょう」
ここの編集さんたちは、もとグルメ誌出身の上に、中には好きが高じてヨーロッパに住んでいたという人もいるくらいなので、非常に「食」にこだわりをお持ち。一方、私は飲めればなんでもいいという非常に大雑把な食のセンス。
なんで毎回フレンチなんだろう、絶対編集さんの趣味だよなぁもぅ、という思いを抱えつつ、向かった表参道。
表参道は、ワタシ好みのヒトクセありげな男性がうようよ歩いているので、非常にいい街です。途中で何人かのあとをついて行きそうになるのを抑えながら到着したPはプラダの隣。店構えもシンプルでモダン、色数を抑えた内装が美しく、気持ちがいい。はー、こういうフレンチならいいかも。
「何を打ち合わせるんですか」
「いえ、何か打ち合わせるって言いましたっけ」
「校了明けですから、これ食べたらみんな帰りますよ」
皆さん、ホントはアタシいなくってもいいんですね……。
編集T女史は、アペの後、ワインリストを注文して熟読。
「あぁ、面白い。持って帰りたい」
と、リストを胸にため息。
ワインリストでそんなに楽しめるのはアナタだけですよと周囲につっこまれつつ、ちびちびとシャンペイン(フランスにいた女子たちはちゃんとシャンパーニュと言うのだな)を舐めるカワサキを置いて、次々と赤を飲んでいくT女史。
アルコールが入ってエンジンのかかったワタクシ、次第に被っていた猫が剥がれ、毒風味で舌好調。
「『カレーは飲み物だ』って、アレ言ってたの誰だっけ……あぁウガンダだ。漫画家の西原理恵子も体感したって書いてましたけど、カレーは飲むもんなんすよわはは」
ホントにお前、三ツ星フレンチで何言ってんだよ……。死んでくれ。
でもお料理もサービスも素晴らしかった。確かにそれほど混んでいなかったとは言え、スタッフのサービスのクォリティーとウィットは実にハイレベル。実は体調がヨロシクなくコースを食べきれなかったワタクシ、ひょっとして死期が近いのかと感じつつ、ギャルソンさんやスタッフさんたちの心遣いに助けられて最後まで漕ぎつけたという感じでありました。
帰り、プラダの前を歩いていたら、T女史が
「あっ、今すれ違ったの、寺島しのぶさんと結婚したヒトですよね」
「えぇっ、マジマジ?」
急いで振り返ったら、確かにあの「フランス人アートディレクター」が、大きめのシャツとパンツに四角いフレームのメガネでウロウロしてた。
あぁそうか、あれが
現代日本を代表する情念
を受け止めた胸と背中か、ってつい穴が開くほど見つめてしまったのでございました。