実家の呪い

【メルマガコラム】2004/09/10

まったく、カワサキは何かと自分のオットや婚家の両親をネタにしてからに……
 と、そろそろ食傷気味の方も多いかと思う。ので、今回は「それじゃ実家は
 どんなんやねん」ということで実家の話。

 カワサキの婚家には変わった人が多い。一方、カワサキの実家は筋金入りの変人
 ぞろいである。従って、公共のメディアにはとても載せられないと、今まで
 書くのを控えてきた、というのはちょっと大げさだけど半分本気。

 カワサキの実家の家訓は「変・珍・奇」である。ウソじゃない。リビングの
 壁のど真ん中、首が痛くなるほど天井寄りに、ハハの直筆でそう書いた紙が
 ずっと貼ってある。部屋を見回すと、そういうハハ直筆の「格言」みたいな
 ものが、あちこちに貼ってあることに気づく。階段ホールも、トイレの中も、
 「格言」の文字、文字、文字で溢れている。

 どこかの国の作家の言葉だとか、経済の法則の名前だとか、ハハがどこかで見聞き
 して「おっ」と思ったものを、躊躇なく大きな紙(大抵はカレンダーの裏)に
 大書きして、貼っておくのである。ハハ曰く、そうしておくといずれ自分の
 血となり肉となるそうな。

 ハハはいつも、仕事の空いている時は、キッチンの換気扇の下で「木製子供用
 ハイチェア」に座り(高かったから捨てられないそうだ……玉座と呼んでいた)、
 プカプカ煙草をふかしつつ、コーヒーをすすって考え事をしていた。
 足元には寵愛する猫たち(最盛期7匹)。そんな時に話しかけると、
 「今、『宇宙遊泳』の最中やってん」
 と、私の興味あるなしに関わらず、自分が考えていたアイデアを私にうわーっと
 吐き出す。講演の内容だったり、論文や原稿の構成だったり、話し始めると長い
 ので、受験期には時計を気にしつつ話に付き合ったものだ。

 「フツー」のお母さんが欲しいものだと、よく思っていた。ハハの論戦に応じる
 のは、いつも理論武装した長女の私だった。チチは「うん、うん」と聞き上手で、
 疲れるとひっそりと寝室に上がっていった。弟は、ハハに反発して独り我が道を
 追求していたが、つれてくる彼女はいつもハハに似たタイプで、姉の私は
 「いい加減、学習しろよ」
 と、よく言ったものである。その後、大学進学で家を出ると、どこでもいやでも
 悪目立ちするように育ってしまった自分のキャラクターを呪った。
 目立たず騒がずおとなしくしていられない。「変・珍・奇」の呪いである。

 実家の求心力を一手に持つハハが倒れたのは、おとといのことだ。それももう
 何度目になるだろう。ストレスを溜め込んで十二指腸が破裂した。以前は高血圧で、
 教壇で倒れた。その時は相手が看護学部生だったから応急措置で助かったのだ。

 よく考えると、実家が「変人ぞろい」なのではなく、ハハが変人なのである。
 倒れた翌日(昨日)には元気を取り戻したハハが、病院に持ち込んだ携帯の電話口で
 マシンガンのように話した。(病院で携帯は禁止じゃないの? 個室だからいいのか。)

 「出血のショックで失神したんよ。顔から落ちたらしいのよ。気がついたら
 前歯が1本折れかけてるんよ。その瞬間思ってん、
 『あ、3日後にビデオの収録があるのに前歯折った顔では行かれへん』って。
 半分失神したまま、どうにか歯は自分でぐーっと戻してん。で、また失神してん。
 プロの根性やで。あのままやったらホンマに歯が折れてたわ」

 十二指腸が爆発したというのに、合併症で一歩間違えればサヨナラだったのに、
 本人は歯の心配である。このオバちゃん、まだまだ生きると思った。